Ibiza inc. オリジナルプロダクト「くみ木の絵本 おかえりどうぶつはうす」

WORKS, 高井幸江/WORKS

 株式会社Ibizaでは、デザイン業の他、自社商品の開発、製造、販売も行っています。

 「くみ木の絵本 おかえりどうぶつはうす」は、“組み木”と呼ばれる木のパズルを完成させて遊ぶ知育玩具。絵本のストーリーに合わせて、歌やアニメーションも展開し、五感を通じて子供の好奇心と感性を育てるデザインになっています。

 制作のきっかけは、独立前に勤めていたデザイン会社(株式会社フレーム)で2012年から担当していた組み木の図面デザインから発展しました。 いつもの組み木のデザインの打ち合わせの最中、「動物の形で家を作ったらかわいいなぁ。」 「パズルの組み立てが難しいから、絵本をつけたらどうかなぁ。」 そんな思いつきで、以前から絵本を作りたいという想いも相まって、どんどん夢が広がり、制作を始めようと決心した頃には、14年間お世話になった会社を卒業させてもらい、2020年に独立したのち本腰を入れスタートました。

 木材は新潟県魚沼市大白川にあるブナの間伐材「スノービーチ」を使用しています。 雪国で育ったスノービーチは、木目が細かく、硬くて丈夫。白くて美しい木肌が特徴です。 この間伐材を活用することで森や自然とのつながりを伝えながら、豊かな森づくりを応援するだけでなく、循環型社会及びSDGsの概念の普及にも活動を広げることができ、環境問題への関心を高めるきっかけにすることも目的としています。

 組み木の作り手は、「にいがた組み木の会」の皆さん。子供たちに木のおもちゃで遊ぶ楽しさを伝えるため2012年より発足しました。会長の平山さんを中心として組み木の普及を主に、工房での制作指導や組み木づくりのワークショップなど開催しています。 おかえりどうぶつはうすの組み木の制作過程では図面を描いては切り出してもらい、それぞれの動物ピースが自立するか、全体のバランスは整っているかなどの調整を繰り返しながら完成に近づけて行きました。

 組み木のデザインの次は絵本制作です。ストーリーは組み木をデザインする過程で頭の中で仕上がっていました。実は、組み木は見た目以上に組み立てが困難なのです。そこで、かわいい組み木の動物たちがひとつずつ家に帰ってくるお話をつけてあげることで、子供たちの想像力を刺激しながら、組み木がくみあがるようサポートする形で物語が進んでいきます。 すべての動物が家に帰ってくると組み木のパズルが完成!

 プロダクトを作っていく中で、どんどんと新しい発想や欲張りな気持ちがでてきました。 お話に歌をつけたらどうか? アニメーションも作りたいし、世界中の子供たちにも遊んでもらいたい! と、英語の翻訳も併記したり・・・。やりたいことをどんどん加え、見て触って感じてつくる、聞いて読んで覚えて歌う、五感を使って遊べるくみ木の絵本が完成していきました。

 歌を作る過程では、「人生で歌を作ることって初めて!」と、期待感とワクワク感を持って、友人であるアーティスト、ハーモニーコルクの諸橋陽一さんに依頼、絵本のストーリーをそのまま歌詞にしながら、作曲をしてもらいました。 歌のサンプルを初めて聴いた時、作ったストーリーが、キラキラと輝く曲調とその優しい歌声になった感激で涙したのを覚えています。 これまでの作品作りは自分からクライアントさまへ届けることが多かったので、逆の立場になって作ってもらうことは初めてでした。とても新鮮で、感動的で、良い経験となりました。

 アニメーション作りにおいても同様に、新しい経験と充実したクリエーションとなりました。 カメラマンのオフィスアトムの宗村亜登武さんに協力してもらい、組み木のクレイアニメ制作を決行。 幼少の頃からペンギンのキャラクター「ピングー」が大好きで、クレイアニメの世界観を見るたびに「いつか作ってみたい」という気持ちで、そんな機会がいざ、自分にやってくることは、やっぱりとてもうれしくて興奮しました。

 撮影は1日掛かり。アトムさんと2人でスタジオに籠り、動物の種類ごとに写真取りをしつつ映像編集で繋いでみると見事に動く組み木の動物たち。それを見るたびに「かわいいーー!!」と、歓喜に叫び、命を吹き込まれた組み木たちへの愛着がどんどん増していきました。気がつけば、14時間、約2,000カットにも及ぶ写真撮影は、なんだか夢中になっていて、あっという間に時間が流れたのを思い出します。

 そしてここからはグラフィックデザイナーの本業。 製品の見せ方を考えるフェーズでは、「くみ木の森」というブランドを作り、森も子どもも育てるおもちゃというコンセプトで展開。今後も、森が広がり、人が繋がり、どんどん世界が広がるような願いを込めました。

 パッケージデザインは、シンプルな箱に型押しでロゴデザインを入れ、シリーズが増えても同じ箱に収まるようラベル貼りで種類分けするデザインに。組み木を納めるため、切りこんで余った段ボールの切れ端は、コンセプトを記載したPOPに利用しました。 また、箱作りにご協力いただいた星野株式会社さんと竹内紙器さんのご提案で、絵本や組み木が仕舞い込めるおもちゃ箱風に。環境を考えた商品ということも配慮していただき、100%の再生紙を使用、舐めても安全な蝋引き加工で強度を高めた箱に仕上げていただきました。 絵本の装丁もマーメイド紙を使用し、温かみを感じつつ触りごごちの良い体裁にして、山田写真製版所さんのご提案で、ISO取得の抗ウイルス加工ニスを採用し、感染リスクを減らした子供たちに安心安全な絵本に仕上がりました。

 そんなこんなでたくさんの人の協力を得てかたちにしてきたくみ木の絵本。 2021年10月の完成後は新潟を中心に絵本の読み聞かせワークショップを開催すると、実際に子供たちと遊ぶ機会が増えました。真剣になって遊び、組み木が完成すると最高の笑顔で喜んでくれる子供たちと触れ合えることはまたひとつの幸せな経験です。 加えて逃れられず発生する販売促進・広告戦略などマーケティング ・ ・ ・。 たくさん考えることが増えましたが、クライアントワークでない自由なものづくりと挑戦、それにつながる活動のひとつひとつが、デザイナーとしてこれまでになかった新しい世界の扉をあけてくれました。

 今、工房で組み木制作の方々と過ごす時間がとても心地が良く温かい気持ちになるひとときです。長年のアートディレクター経験を経て、このライフワークに出会えたことは大きな宝もの。 これからの野望は地元である新潟県燕市に自社のくみ木の森工房を作りながら、活動の幅を広げ、たくさんの人に楽しんでもらえる環境と機会、そしてくみ木の絵本を作り続けていくことです。


>> くみ木の森ウェブサイト

【受賞歴】
ニイガタIDSコンペティション2022 大賞受賞
グッド・トイ2022 受賞
第16回キッズデザイン賞 受賞
ウッドデザイン賞2022 受賞